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2008年3月16日 (日)

「集団自決」を心に刻んで

証言沖縄「集団自決」―慶良間諸島で何が起きたか (岩波新書 新赤版 1114) Book 証言沖縄「集団自決」―慶良間諸島で何が起きたか (岩波新書 新赤版 1114)

著者:謝花 直美
販売元:岩波書店
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わたしとほぼ同世代の沖縄タイムス編集委員の著作だ。戦後生まれの著者が、「慶良間諸島へ毎週通いながら取材を重ねた」(p221)結果生まれた貴重な証言集である。これほどはっきりした証言があり、しかも、複数の証言の中にはそうとうの共通部分があり、それぞれが、違った立場、違った状況下でしている証言だけに、併せて読むと、より立体的に歴史的事実が浮かんでくる。

こうした「事実」がありながら、文書の不在を根拠に、今ごろになってその「事実」を否定しようとする者たちがいる。

沖縄戦の真実と歪曲 Book 沖縄戦の真実と歪曲

著者:大城 将保
販売元:高文研
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ここには、教科書検定の際の「集団自決」記述をめぐってのできごとと大江健三郎と岩波書店が元軍人とその遺族に訴えられた件の顛末が詳しく書かれている。ここには、沖縄戦での「集団自決(強制的集団死)」への日本軍の軍命・関与を否定するために、どのような問題の矮小化と詐術が、どのような場で行われたのかが詳述してある。つまり、「集団自決」に関する訴訟を起こし、それを理由に教科書検定を“後退”させる。このような試みは、従軍慰安婦や南京大虐殺を否定する主張を展開する時にも用いられたもので、それらを否定しようとする人脈は、繋がっているというのである。このようなことは、一部では周知のことであったが、本書で、認識を新たにした。

軍命は必ずしも文書で伝達されるものではない。わたしは以前沖縄に侵攻した米軍が日本軍から押収した「公式文書」群をマイクロフィルムで見たことがある。そこには、ありとあらゆる(と思われるほどの)命令書が前戦の部隊と司令部との間に交わされたことが見て取れた。弾薬・糧秣等々の要求と補給、 進軍計画などが細かく報告され、指示されていた。それをみながら、わたしは、戦争とは一面で、官僚機構による行政的な行為であることを知った。

しかし、だからといって、「集団自決」を命ずる軍命が、それらの文書群に存在しないことを根拠に完全に否定されるわけではない。それに加えて、軍の関係文書の大半は敗戦前後に破棄されていると見られる。自ら破棄したものを、あるいは、同じ勢力が破棄したことを確信した上で、“それ”はないと主張し、「真実」は隠蔽し、「事実」を歪曲する。

さて、謝花氏の地味だが粘り強く継続されてきた聞き取りと、それを可能のした氏の誠実さが閉じられた心を開いたことを、思う。わたしたちは、聞き取り調査の技能を一層磨き、その成果の社会への還元について真剣に考えたい。

この19日から沖縄へ行く。今回の調査の目的は「集団自決」とは別のところにある。しかし、わたしが研究の対象と指定戦後の沖縄の人びとは、多かれ少なかれ、「集団自決」や日本軍による虐殺、そして、米軍支配の暴虐を体験した人であることは、しっかりと心に刻み、調査にのぞみたい。

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コメント

なるほど。AIさんのやっていることは
凄い価値のあることだと改めて感じました。
日本で何が起こったのか。
良いとか、悪いとかそういう次元ではなく、
真実を追究して頂くと、後世の者は大いに
助かります。

難しくて、完全に日記の内容を把握している
訳ではありませんが、日々知識を深め、
また日記を再読したいと思います。

投稿: 石油王 | 2008年3月20日 (木) 23:08

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