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2008年5月15日 (木)

〔遅報・学会発表要旨〕国家、地域、教会〜沖縄キリスト教をめぐる二つの国家と地域社会〜

沖縄キリスト教史において「国家とキリスト教」という問題を措定すると、日本本土(以下「日本」)の他地域のそれとは異なった課題が生じる。近代以降も、沖縄は日本とは違った経験してきた。また、日米の二つの国家に挟撃される沖縄の位置を考慮すると、そのキリスト教史を自立的に論ずるならば、国家とキリスト教、あるいは、国家と教会との間に、地域社会を中間項に設定しなければ、そこで生じた歴史的事象をとらえきれない。

それを前提に米軍占領下の沖縄キリスト教史を粗描するならば、その構成要素は、①沖縄人(地域住民、キリスト者)、②米国人(米軍人・軍属とその家族、チャプレン(従軍牧師)、米国人宣教師)、③日本人(国民、日本の教会関係者)の三者が考えられる。そして、それぞれがそれぞれの思惑で思考し、行動する過程で、国家意思がどう実行され、貫徹されていったか、その解明が課題となる。

ここに沖縄における教会形成と国家の関わりを示す興味深い資料がある。『キリスト教年鑑』二〇〇七年度版によると、沖縄県の教会は三三〇余り、信徒数は約三九,〇〇〇名で、県人口の二.八二%が教会員となり、日本の他の地域に比べて三倍近くになる。さらに各地域別に教会数・信徒数・対人口信徒比を見ていくと、沖縄キリスト教のある特徴が鮮明になる。教会と信徒は人口分布通り、約九割が沖縄島に集中している。ところが、沖縄島でも米軍基地が集中している中部地区には、県都・那覇を含む南部よりも人口が少ないにもか拘わらず沖縄全体の四三.二〇%の教会が集中し、信徒の割合は三.七六%にもなる。これは全国平均の四倍弱である。さらに、中部地区の教会はペンテコステ系やいわゆる「福音派」系の教会が多いことがわかる。

これは、単なる偶然ではない。発表者の聞き取りによると、中部地区の「福音派」系諸教会のいくつかは、米軍基地に頻繁に出入りでき、基地内の信徒やチャペルで交流をもっているという。また、このような「福音派」系諸教会には積極的に平和運動を行っている教会もあるが、それでも米軍批判の言動はあまり聞こえてこない。沖縄におけるキリスト教人口と教会の偏在は、米軍の駐留との関連を想起させる。そして、そのような関係は、日米両国の圧力により歴史や政治の矛盾が沖縄地域社会に収斂した結果でもある。このように、駐留軍が、国家意思に基づき牧師や信者、教会を通して沖縄地域社会に自らの有用性や友好的姿勢を顕示するとき、沖縄の教会は自ずと二分されていく。

本報告では、そのような沖縄教会の現状をふまえて上で、沖縄教会と国家の関わりを省察するために、チャプレン(米軍従軍牧師)と宣教師(団)の実態とその役割について考察した。

その結果、以下のことが明らかになった。まず、一九五〇年代に本格化する米国人宣教師による沖縄伝道は沖縄占領軍や東京のGHQの奨励と支援の元で実現された。そのような宣教師は、多くの場合、米軍の沖縄駐留には肯定的で、なかには沖縄の基地外で「英語教会」と称する米国人の教会をつくり、それらを背景に沖縄のキリスト教界に大きな影響力を及ぼそうとした宣教師もいた。

また、一九六〇年から七〇年にかけて、在沖米軍基地には二〇余りのチャペルがあったが、そこで牧会にあたっているチャプレンは、牧師であると同時に現役の将校でもあった。彼らは、時に、兵士たちを軍の意向にそって教導し、監視したりもした。また、チャプレンは最寄りの教会の牧師や信徒を通じて沖縄の地域情勢に関する情報を入手し、占領軍当局の意向をそれとなく地域住民に伝えるように促した形跡がみられる。

このように、沖縄在住の米国人のキリスト者、つまり、宣教師やチャプレンたちは程度の差はあれ米国の立場を擁護する役割を担っていた。そのため、沖縄の地域住民にとっては、キリスト教は米国の宗教であり、米軍の宗教であるという認識が強く、沖縄教会は地域社会で伝道する際に米国や米軍の動向に配慮せざるを得なかったのである。

米軍基地の駐留を巡りつねに分裂を余儀なくされている沖縄地域社会と、伝道する際に地域社会の亀裂を無視できない沖縄教会の「現況」は、こうした環境下で形成されているといえる。

(「キリスト教史学会第58回大会」(2005年 9月15日、於恵泉女学園大学)での研究発表要旨。『キリスト教史学』第62集(2008年7月)掲載予定)

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